Lepido and Scales
熱帯四方山話
2011年 08月 11日 (木) | 編集

 最近マネする連中をすっかり忘れておりました。

 生物学徒としては『擬態』というものは「それが本当にあるものなのか?」という難題も含めて非常に興味の尽きない現象です。それはもちろんチョウに於いてもでありまして、特に熱帯では「ベーツ型擬態」と呼ばれる捕食者にとって危険、もしくは嫌な生物種をマネするタイプが多くみられます。見るからに、そして見事なまでに有毒種への擬態にしか見えない分類群や種というのは多いです。
 日本にもいて近年は北上の一途を突き進む我らがナガサキアゲハも、実はその分布の中心たる東南アジアではメスが有毒のジャコウアゲハの仲間をモデルにさまざまな擬態を展開しているのです。私自身、インドネシアで遠目に「ああ、キシタアゲハのメスが飛んでいるなぁ」と思って眺めていたら、目の前に来てようやくナガサキアゲハだったことに気付いたという経験があります。

 というようにアゲハチョウも擬態をするのですが、そのものズバリ「マネシアゲハ」と呼ばれる一群が東南アジアにいます。キラサ Chilasa という名の連中ですが、これがもう、翅の形も模様も知らなければマダラチョウの仲間にしか見えません。もちろん飛び方においてもや、です。書いてて思い出しましたが、そういえば今年の正月にもパラドキサという種で記事を書いたりしてます。

まあ、そんなマネシアゲハですが、今回は2種。


(♂; alt. 630m, Soroako-Leduladu, S. Sulawesi, Indonesia, 21. Oct. 1999)

ベイオビスマネシアゲハ Chilasa veiovis

 スラウェシの固有種で、本属最大種。
 同じくスラウェシ固有のブランチャードオオゴマダラ Idea blanchardii をモデルにしていると言われたりしますが、個人的にはそれほど似てない気も…。ただし、本種はたまに黒化型が出現することが知られてますが、上のオオゴマダラにも黒化するタイプがいたりして、これは面白いですね。


_1010873aa.jpg
(♂; S. Leyte, Philippines, 16. Apr. 2001)

オスマナマネシアゲハ Chilasa osmana

 つい数年前までほぼ幻のアゲハだったフィリピンの稀種。その当時は日本にある標本は5個体以下でした。最近になって産地が見つかり暴落しましたが……。地味と言えば地味ですが、青味がかった灰色は、ともすれば重厚で素敵ではないですか。こちらは恐らくイデオプシス Ideopsis (リュウキュウアサギマダラの仲間)がモデルじゃあないか?と思われますね。
 ちなみにもう1種、フィリピンにはミンダナオ島にカロリンマネシこと C. carolinensis というのがいますが、こちらは未だに希代の大珍品。まだ世界には十指に余る数しか標本が無いと思われます。本種を超える珍種といったら、もうブータンシボリアゲハとかオナシカラスアゲハとかの大珍品を通り越して伝説になっている種くらいなものです。数年前に日本の標本商の採り子がようやくポイントを見つけて採って来たそうなのですが、現地でゲリラかなにかに殺されてしまったらしく、また採れなくなりました。さて、この種が落ちる日は来るのだろうか?


 ところで、この2種(カロリン入れて3種)は数あるマネシアゲハの中でも veiovis 種群という一つの種群にまとめられています。このグループはフィリピンとスラウェシにしか分布しておらず、典型的なフィリピン~スラウェシ分布を見せます。これは恐らく、両方の地域が昔のスンダ大陸から隔離された後にどちらかで派生したものが、その後の接近で分散したのではないかなぁと思います。


図3
(マネシアゲハの veiovis 種群と ダマシヒカゲ属 Zethera の分布)

 他にもジャノメチョウ類のダマシヒカゲ Zethera なんかもフィリピンとスラウェシだけにいる属ですね。ヘビなんかもアハスナメラことフィリピンラットスネーク Coelognathus erythrurus が同じ分布を見せます。個人的なカンではフィリピンとスラウェシのは別種かもしれないと思ってますが、間違いなく近いものでしょう。
 とまれ、こういった分布というのはその土地のなりたちと一緒に考えると、進化(というか分散)について非常にダイナミックな面白さを与えてくれると思うのです。もちろんDNAなどでその分岐の年代を推定すると一層面白いことは請け合いですが、想像するだけも楽しいではありませんか。




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